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【旅】Chicago-NYC 第4話「果てしないニューヨークの空の上で」

第4話「果てしないニューヨークの空の上で」

■NEWYORK East24th 08:48 28/Dec


ニューヨークの朝。日本を離れて3日目。East24thにあるホテルのドアを開けて外に出ると、
12月の冷たい空気が頬を打つ。鉛色の空、同じく鉛色のアスファルト、嫌が応にも目に入る
イエローキャブのビビッドなカラー。ダウンや分厚いコートに身を包み、New York Times
とベーグル、そしてセルラーを片手に道を急ぐ人達・・・何度も見たニューヨークの朝の姿が
目の前に広がっている。僕はと言えば、冷たい空気に煙草の煙を吐き出しながら同じ様にダウ
ンに身を包み道を歩いている。彼らと違うのは手には新聞でも、携帯でもなくデジカメを握り
しめ歩いていること。ビル工事の現場を眺めたり、ストリートファニチャーを写してみたり、
要するに観光客丸出しで流れに乗っている。ただ、地下鉄に慣れた手つきでメトロカードをス
ワイプし乗り込んでゆく様はちょっとだけ疑似ニューヨーカー気取りだ。判りやすく「グラン
ドセントラル」で下車し、気ままに道をさかのぼってゆく。途中で5th Aveに合流し左右にど
んどん現れる高級ブランドの路面店を冷やかすでもなく、視界にだけ捉えながら今日の目的は
ただの「散歩」。無目的が目的の朝。毎年訪れているニューヨークはちょっとづつ変わってゆ
く様で、でもやっぱり根本的な部分はここ数年では変わっていない印象なのがとても落ち着
く。すれ違う人達もそれこそ民族の万博の様に多種多様。時期の割には日本人に遭遇しないの
も心地よい。・・・有名な「ロックフェラーセンター」の前では、見た目こそアメリカ人だ
が、ニューヨークなんて一生で一度来るか、来ないか、という様な一目でわかる「オノボリ
サン」ご一行が写真をパチリ、パチリと撮り合っている。

アメリカはデカイ。

だから、自分たちの街や州から一生出ないで暮らす人達なんて星の数程いる。僕たち日本人に
よりもニューヨークが遠い街だって人達がわんさかいるって訳だ。自由の国アメリカは自由な
だけに「平等」というイリュージョンで霞がかかっていて、なんとなく毎日を暮らせてしまう
僕たちより逼迫した毎日を送っている人達の集合体なんだと思う。プライベートジェットに
乗って、州から州へ、そして国から国へ、資本主義の番犬として飛び回る彼らがアメリカ人な
のではなくて、地元のデリで買うパンの1セントの違いでさえも一週間のお財布と照らし合わ
せて見つめ込んでしまう人達、そして夜が明ける事を1秒でも遅らせたいと思う様な人達があ
る意味で本当のアメリカ人と呼ばれる人達の姿なのかもしれない。いや、アメリカ人になりた
いと願う人達にそういう境遇が多いのかもしれないが。満面の笑みではしゃぎながら写真を撮
り合う若い兄弟や、老夫婦を横目に見ながらこんな邪推に思慮を巡らせる俺がひねくれている
といえばそれまでなんだけど、でも遥か青い空に突出した摩天楼や世界に冠たる金融サービス
企業のロゴがまとわりつくこの街を歩いていると、それだけではない、それを支えるための
犠牲の姿が見えて来るのは自然だと思うし、だからニューヨークには無限のパワープラント
としての刺激を感じるのかもしれない。歓びの横にある失望、成功の背後の失敗、可能性を
あざ笑う現実。・・・そんなものが見えない音となって常に僕に囁き続けている緊張感が
ニューヨークのヒリヒリした、そしてなんだかそれでも安心して心を許してしまう街の魅力
なんだと思う。


そんな事を思いながら歩いていると、気がついたら目の前にはタイムズスクエアが広がってい
る。きらびやかなデジタルサイネージ(Digital Signage)が街を飾り、ビルが丸ごと画面に
なった様な商業広告の博覧会を地で行く凄まじい光景が押し寄せてくる。こういった屋外広告
のことを広告業界の用語では「OOH(Out Of Home media)」と呼ぶ。4マス媒体(テレ
ビ、ラジオ、新聞、雑誌)以外に我々消費者へブランドや商品情報を届ける事の出来るメディ
アとして年々注目が高まって来ている領域。日本だとこういったサイネージのメッカは渋谷
ハチ公交差点前の「Q FRONT(Q’s EYE)」や「109ビジョン」を中心とした一画なのはご
存知の通り。ただ、日本では諸処の規制が厳しく、このタイムズスクエアの規模のサイネージ
展開は出来ていない。当然ニューヨークでもこのエリアだけが特例区域で、SOHO地区にこ
ういうものを見つける事は出来ない。まぁ、だからタイムズスクエアはディズニーランドと
同じ様な特殊区域、アミューズメントなんだと思えば楽しめる。実際年々このタイムズスクエ
アのサイネージは進化を遂げていて、マルチカラーLEDの壁面パネルの解像度は飛躍的に向上
し、遠目には自宅で液晶テレビを見ているのとたいしてかわらない感覚で流れる映像を楽しむ
事が出来る。この写真のどこがサイネージ画面で、どれが単なる印刷された広告か、正確に分
かる人がどの程度いるだろうか?・・・実際は驚く程サイネージ化されているんだ。


■NEWYORK Times Square 11:20 28/Dec

タイムズスクエアは「面白い反響」をする。というのも一番有名な「One Times Square」
ビルに向かって道が絞られてゆく形になっているし、高い建物や広告塔、ビルボードが乱立
するので音がこもってしまい不思議に残響音が響き渡る。だから訪れると常に「ワー」っと
いう様な残響と人々の話し声、車のクラクションなどがサラウンド状態で耳に届く。ちょっと
だけオペラハウスなどのロビーで味わう独特のリバーブ(残響効果)を思い出してもらえば
想像が付くだろうか。乱反射する音と、四方八方から目に入るデジタルサイネージの広告情
報。この視覚的、聴覚的な情報の氾濫と、混み合った道の触覚的な情報によりいつしか人は
タイムズスクエアの高揚を自らの高揚と置き換え、我を忘れて観光客の一人として夢中になれ
る。良い悪いは別にして、こんな歌舞伎町みたいな見た目だけど二味は違うタイムズスクエ
ア、馬鹿にしないでチャンスがあるなら絶対行ってみて欲しい。余談だが、この「One
Times Square」ビル。元々はかの有名な「New York Times」の本社として建設され、
111m、25階建ての高層ビルだったりする。今同社の本社は移動してしまっているが、New
Yearの花火などでいまだ持って、ニューヨークの象徴的な建物の一つなのはご存知の通り。


そんなこんなボケーっと散歩をしていたら、いよいよニューヨークにも別れを告げる時間が
近づいて来た。「Times SQ」から地下鉄に乗りホテルへ帰る。超—!カワイイホテルのフ
ロントの子に預けておいたバゲージを出してもらい、近くでキャブを拾う。

「Would you go to the LGA airport?」
「What airline?」
「United. Domestic.」

ラガーディアまではわずか20分程度の旅。車窓から見えるマンハッタンをこの世の最後と
ばなりに寂しい気持ち(いつもNYCを離れる時は同じ気持ちになる)で眺めつつ、EZPASS
(日本でいうETCみたいなの)のゲートをくぐり抜け、車はマンハッタンを後にする。
・・・丁度アメリカン航空の737が離陸推力を獲得し、猛烈な滑走状態に入るランウェイを
横目にキャブはラガーディア空港に滑り込む。荷物を受け取り、そのままユナイテッドの優先
チェックインカウンターに向かう。カウンターでは猛烈に並ぶエコノミーカウンターを避けて
こっちにやってきた若いアメリカ人カップルがチェックインを断られモメている。

(以下、大雑把な日本語訳・・・)

「どうしてこっちは空いているのにチェックインしてくれないのよ!」
「お客様、こちらはファーストクラスご利用のお客様か、スターアライアンスゴールドの
お客様のみのカウンターです(実際はこんな丁寧に言ってなかったけど)」
「同じユナイテッド使ってるんだから、やってくれたっていいじゃない?」
「だからさっさとあっちの列の後ろに並びなさい」

結局最後はけんもほろろに追い出され、非常に可哀想な感じだった。ゴールドメンバーだけ
ど、国内線だしファーストじゃねぇからなぁ、・・・日本人だし意地悪されたら嫌だなーと
思いつつ念のためにカードとチケットを出すが心配に杞憂に終わったらしく、さっさとチェ
ックインが済み、X-Ray検査場を通過。通路で見つけた美味しそうな「ベリー入り飲むヨー
グルト」(超サイズでかい・・・)をモグモグ飲みながら待合所へ。どうやらここにはラウ
ンジはないらしいので、ベンチに座りながらメール打ったり、ヨーグルトの下に隠れていた
果実をすくい食べたりして時間を潰す。なんでこういう美味しいものを日本のコンビニで売
ってくれないのか非常に不満だ。目の前ではデブな女性二人が俺と同じベリーヨーグルトを
美味しそうに食べている。「デブとヨーグルトとスウェットパンツ」。あぁ、超アメリカ♪
でもあぁはなりたくねぇな。つーか、空港に汚ねぇスウェットかぁ・・・。見回すと部屋着
みたいな格好で歩いている不気味な奴らが多い事に気づく。容姿に気を使わなくなるってのは
なんだか、人生を放棄したみたいで辛いなーなんて勝手に酷い事を思いながら、ボーディング
が始まったゲートへ進む。シカゴまでのシップは行きと違い、エアバス社のA319。ズングリ
ムックリした格好が結構好きだったりする。出張でのヨーロッパラウンドの時も結構乗った
なぁ。でも今回・・・一番ビビッたのは、搭乗時にキャプテンが搭乗口にいて、搭乗客全員
と握手をしながら挨拶をしている事!こんなキャプテン初めてやろー!と思いながら、小柄
な初老とキャプテンと挨拶を交わし乗り込む際にめざとく横を見れば・・・

あぁ・・・コックピットドア開いてる・・・(´Д`;)ハァハァ(嬉)。

エアバス社の誇る美しいグラスコックピットが至近距離で見える。既に打込まれたルートが
ディスプレイに映し出され、コーパイ(副操縦士)さんは管制塔と交信のまっただ中。
・・・ホクホクと良い物見た感を引きづりながら着席し、離陸を待つが、あのオヤジ(キャ
プテン)、ドアを離陸直前まで開けてやがった!ビバユナイテッド!日本の会社もこん位し
てくれっ!!!


■NEWYORK LaGuardia Airport, UA683 on board 14:00 28/Dec

そうこうしてるうちに定刻通り、ニューヨーク現地時間の午後2時。わずか24時間ちょいの
滞在だったニューヨークから僕を再度シカゴへ送り届けてくれる「UA683便」は離陸準備を
整え滑走路へ。いつもニューヨークから旅立つ時は曇りか雨な気がするが、今日も曇り。
楽しい想い出の分、現実の自分が出来てないことを突きつけられる気がして毎回見えない叱咤
激励を貰える街。離陸後しばらく眼下にひろがる町並みを見ながらいつもそこで暮らす人達の
人生について勝手に思いを巡らせ、最終的には自分の人生を俯瞰して見た時の満足感や不足感
を天秤にかけて思いに沈む頃・・・機体は雲を突き抜け真っ青な空と眩しい太陽の光が機内を
支配する。そう、いつもそうだ。なんとはなしに深く沈んだ心を察するかの様に機体は光を届
けてくれる。そしていつも僕はそんな空を見て、人には明日がある事を思い出し、もう一度前
に向かって進んでみようと思い直し飲み物をオーダーする。同じ事の繰り返しかもしれない、
でも同じ事の繰り返しの中にちょっとした進歩や、今まで知らなかった歓びを見つけられる事
が人は大切なんだと思う。一足飛びの充実感は続かない、と嗜められているのだろうか。
いや、大空は無言でそんな人の心の葛藤に新しい視点を与えてくれるキッカケをくれるだけ
だ。答えは自分で出すものだし、何に頼るものでもない。でも、迷った時に大空は不思議と心
に正解を導く力を与えてくれる。




人生という一度しかないものに本当に必要なものはー


1秒も限られた時間を無駄にしてはいけないよ、と微笑みかけるニューヨーク上空の青空を目
に焼き付け客席のシェードを下ろし、持ち込んだ本を開く。ちょっとだけ開いたシェードから
漏れる強い日差しに照らされてプリズム状の乱反射をおこすコーラの炭酸を眺めながらシカゴ
での夕食に思いを馳せる。

到着すれば、いよいよ残された十数時間のカウントダウンが始まる。

(第5話につづく)


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