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【旅】Chicago-NYC 最終話「そして明日を形作るもの。」

最終話「そして明日を形作るもの。」

■CHICAGO Airport Hotell 06:30 29/Dec

まだ空が薄暗い朝6時半時。そんなに苦もなく携帯のアラームで目を覚ます。ついさっき寝た
ばかりだが容赦なく帰国の時間は迫ってきているようだ。・・・すっかり冷めた薄いコーヒー
を胃に入れつつ荷物の最終パッキングをサササっと片付ける。大して仕舞う荷物はないので
10分程度で巨大なDAKINEのツアーラゲッジの身支度は完了。充電しておいたデジカメの
バッテリーと日本で使っているMotorolaのM702iSを手持ちの荷物の中にさくっと放り込
む。・・・そういえば出張中にはこの携帯の充電器を220Vのコンセントにぶち込んで何個と
なくぶち壊した。気がつくと焦げ臭い臭いがしてきて白煙がモヤァ〜っと・・・。Macや最近
の電化製品の充電器は海外の電圧に対応したものが多いのでそのままブッ刺しても問題ない事
が多いから、たまに対応してないものがあると「目一杯壊す」・・・コレ自然の摂理。


チェックアウトし、空港までのシャトルバスを待つ。隣にはどっかしらの航空会社のキャプテ
ンが同じシャトルを待っている様で、他のお客さん含め3人がどうやら空港までご一緒らし
い。なんとも派手なシャトルに乗り込み約5分程の道。NYCに旅立ったのと同じ「UNITED」
のカウンター前で下ろしてもらい、さっさとチェックインを終わらせ検査場を通過。前回の
反省を生かし今回は万全に臨んだので、検査場でも大きな引っかかりなく開放される。とりあ
えずガイドブックなどに必ず載っている「オヘア空港名物」とされるターミナル1にあるコン
コース「B」とコンコース「C」をつなぐ遊歩道上の「光る天井」を通過。なんだかガイド
ブックではすごい!・・・みたいなことが書かれているが、実際はただひん曲がったネオンが
順番に光っているだけ。これほど期待ハズレな代物はなかなか無い。悔しいので出来る限り
「凄そうに」写真を撮ってみた。。。(汗)

【出来る限りすごそうに撮ってみた】


【ぶっちゃけ実際はこんな感じ】


オヘア空港のターミナル1は「UNITED」がほぼ占有している。そこに1日1便の東京行きANA
便が場所を借りているだけなので、基本「UNITED仕様」。しかも国内線の発着とかしてるか
らDUTYFREEが超ショボい。お土産・・・と思いつつ覗いてみたら「〜な〜んも買える物が
ないっ!」嫌がらせかっ!!!お土産の一部は事前に買っておいてよかった。。。ここでの
購入は諦め(結構薄情)、もう自分の時間に徹することとする(笑)。一縷(る)の望みを
託しつつ、長い列に並びスタバを買ってみるが・・・薄い。どうやったらこんな飲み物を作れ
るのか、恨めしい目で店員を眺めつつ飲み干してから、小腹が空いたので朝食を取りにラウン
ジへ。・・・「Red Carpet Club(RCC)」のファーストクラス用はなんだかヘンテコな位
置にある。まぁ、言ってみればイトーヨーカドーとかで「トイレがある位置」みたいな雰囲
気。・・・アルミ製の大きなスライドドアを開けて中に入ると、午前便だからか人影はまば
ら。愛想のいいオバチャンがいるフロントで受付をして、窓際のイスに陣を取る。ラウンジ
の窓からはオヘア空港の7本ある滑走路の一本と、鉛色の空がぼやけた境界線を作りながら目
の前に広がっている。この無機質だが雄大なアメリカ内陸の空を初めて見上げたのはそう、
ほんの4日前の出来事だった。


取り合えずお腹が空いているので、ふんだんに盛られたフルーツやパン、チーズなどなどを勝
手に盛り付け、カプチーノをジュバーっと注ぎ込み大量のシナモンをふりかけてイスへ。手持
ちのかばんから愛用のPowerBookG4を取出し、この3日間の記録となるブログの記事を書き
始める。・・・そう今この瞬間がこの日記がスタートしたあの冒頭の部分(第1話)になって
いる訳だ。フルーツをお替りに行き、コーラなども追加してボーディングまでゆったりと過ご
す。成田のラウンジで疲弊しきっていた自分は過去のものであり、今は少し前向きなモチベー
ションと、自分のアイデンティティーを取り戻せた様な充実感で満たされている。Macを眺め
ながらブログ記事の構成を考えてゆくが、書きたいことや、覚えておきたいことが比較的クリ
アな脳みそからグングン引き出されて、どうやらこの記事は膨大なスケールになる予感を覚え
た(当たった訳だが・・・)。


出張でどの国に行っても、どの街に行っても国内外問はず持ち歩いている「Macintosh
PowerBook G4」。疲れてホテルの部屋に帰っても、あの落ち着いたシルバーのボディと、
使いやすいOSを立ち上げた瞬間に色々書きたい話題や見せたい画像が湧き上がる不思議な
パートナー。あまりに持ち歩きすぎて初代のチタンボディのG4はボディが分解しているわ、
ヒンジが死に掛けているわ、最終的には液晶のマウントが折れて画面が自立しなくなっ
た。・・・そのせいでとあるプロダクションの社長には「日本一ボロいG4」とまで言われた
(汗)。・・・確かに分解しているボディをセロテープで止めている奴はそうは見かけない
けど、彼はまだ立派に部屋でサブ機として生きている。でもまぁ、その反省を活かし、2代目
となるアルミボディのG4は綺麗そのもの。暗闇で光る背面の「リンゴマーク」や、浮かび上
がるイルミネーションキーボードなどの、確信犯的な演出が大好きだったりするが、クリエー
ションを刺激するってのはそういう遊び心の集大成なんだと思う。使いやすさはユーザーに
取ってとても大切だけど、それだけを追求したマシーンってのはお勉強の出来る優等生みたい
なもんで、創造力を必要とする類の人にとっては可もなく不可もなく、どうでもいい存在に
なってしまうものかもしれない。ちょっと嫌らしくても、自己主張のあるMacの雰囲気が昔
から好きだったりするのは俺自身がひねくれているからなのかな。


って、別に俺がMac好きなのをここまで勝手な思い込みで正当化しても誰も興味なさそうなの
で、時間を進めてみたいと思う。

■Chicago O’Hare International Airport RCC First 10:15 29/Dec

「RCC – First Class Lounge」内には「NH11」便の最終搭乗の案内が流れている。日本人
らしき親子連れが動き出しているが、今日のファーストはさすがに「一人ぼっちの羞恥プレ
イ」は避けられるのだろうか。「C10」と書かれたボーディングスポットへ辿りつく頃、地上
係員が「NH11便、東京行きのお客様っ!」と叫んでいる。・・・あれ?また俺ノロノロ動い
ているのか?・・・日本人と分かる俺の顔を見た係員が「お客様、11便東京行きですか?」
と血相を変えて近寄ってくる。あぁ、ハイハイと答えていると、早く乗ってくれと言わんばか
りに誘導を始める。ん〜、でも俺このボーディングスポットの電光掲示板撮りたいんだよ
なー、っとおもむろにデジカメを取り出し、立ち止まって記念写真。その間も真横を日本人
観光客が強制連行され続けている。ん〜、NARITAって文字が上手く写らないなぁ、露出変え
てみよっかな・・・などゴチャゴチャやっているとさすがに・・・

誰もいない。

ゲート閉めますよ!位の勢いだったので、ゴメンゴメンとチケットを出し乗り込んでゆく。
ジェット燃料のケロシン(Kerosene)や空調のドライでややダスティーな臭い、そして先行
したお客さんからの香水の臭い。外気に近いのでややヒヤッとしたPBB(Passenger
Boarding Bridge=搭乗ゲートから機内までのあの通路ね)の雰囲気が俺は好き。一番ワクワ
クしている瞬間かもしれない。PBBが1kmあってもいいのになぁ・・・と意味不明なことを
考えながら、「ANA First」と書かれた方へ曲がるとまた誰もいない閑散とした視界が目に入
る。


機内に入れば・・・

・・・おぉ!今日は他の客がいるっ!

乗り合わせはどうやらラウンジで見かけた父、母、娘の3人。娘はどう見ても小学校2〜4年
位。さぞやいい娘に育つことだろうよ・・・。

ファーストクラスは横一列4席の配置。その1列目を親子と僕で全て埋め尽くし、2列目は誰も
いない。どうやら成田までのフライトはこの4人がファーストの乗客の様だ。

■All Nippon Airways NH11 First Class 1K on Board 10:38 29/Dec

Fキャビンにはキャパシティに対して4人の4/8が搭乗しているので、CAさん達もゆったりと
離陸前の準備をしている。また作務衣や雑誌、アメニティーキットと、更にアメニティーの
追加要望など聞いてもらいながら時間は流れていっている。今日も行きと同じBoeing
777-300ERが俺を日本まで運んでくれる。行きとまったく同じ「1K」の座席に腰掛け、ウェ
ルカムドリンクにコーラ(またかよ!)をもらいつつ配布された日本の新聞に久しぶりに目を
通す。窓からはくぐもった空がどんより顔をのぞかせており、時より背後から聞こえるジェッ
ト機の離陸音や着陸時のスラストリバーサーの轟音が聞こえるのみ。4日前シカゴに降り立っ
た時もこんな空だったなぁ、と思いつつ本当に飛ぶように過ぎ去ったこの4日間を再度思い出
す(思い出した内容は過去第1話〜5話を参照・・・)。

「・・・selector lever automatic.」

いよいよ扉が閉じられプッシュバックが開始される。シカゴよサヨナラである。この瞬間から
はいつもこの後予定されたフライトタイムを消化すると日本に着いてしまうなんとも寂しい感
覚が心を支配するんだよねー。「ブゥゥゥーン」っというエンジンが始動手順に入った音を聞
きながら「あ〜あ」といつも思ってしまう。行きより明らかに疲れが取れているのでゆったり
とファーストのデカイ椅子を楽しみつつ、滑走路へ向けタキシングをしている機内からの風景
を焼き付ける。空港の地理感覚がないので、おおよその位置を考えながら想像すると、どうや
ら西向きの滑走路へエントリーしている様子だ。連なった航空機が順番に離陸をする様子を窓
から眺めていると、ついに順番が来たらしく例の4点鐘が鳴る。スルスルスルーっと機体が動
き出し、その数秒後背中を大きく押されるように離陸滑走へ。ジェットエンジンの前方にいる
と、777の様な高バイパス比エンジンの場合は特に「ゴー!」っというジェットエンジンの爆
音ではなく、「ビーン」という独特の作動音の方が耳に入る。十数秒この「ビーン」を聞き続
けていると、プッシュバックから30分後の11:15、おいらの乗せた機体はついにシカゴの地
面を離れ空中に解き放たれた。

Photo by T.UEDA

さすがに今回は離陸後爆睡に入らず、ゆっくりと小さくなってゆく街を見下ろす。と言って
も、すぐ雲の中に入ってしまったので、あまりゆっくりシカゴの街を上空から楽しむ時間は
なかったのだけど。。。北西の方へヘディングする様で離陸直後にライトブレイク。その後
は黙々と(って表現も変だが)上昇を続け、離陸直後は12,000ftで一旦ステイ。その後再度
上昇を初め復路便の1st Cruising Altitudeは34,000ftの様子。その高度になる頃には、機内
食のメニューも配られいよいよおいらの空腹を満たしてくれる時間帯に。。。今回は体調も
いいし、ゆったり食べてやろうと思っていると・・・

PA 「ここで、エコノミークラスの皆様へ、今後のお食事のご予定をご説明申し上げます。
お食事は洋食、和食の2種類を・・・」

とアナウンスが入る。おぉ!エコでは俺の大好きなチキンとパスタのセットが出ている模様
だ!うまス!俺それ食いたいっス!・・・とウハウハしていると、

「・・・すみません、手違いでエコノミークラスのアナウンスが流れてしまって。」

とCAさんが謝りに来る。え?いいじゃん、あっちのメニューも知れたんだし。と俺は思って
いたが、世の中そうでもないらしい。 難しいのね、ファーストクラスのご作法っての
は・・・(笑)。って事で、前菜にはキャビアとシャンパンの成金コースをオーダー。
ふんだんに盛り付け湯葉兄には無駄に贅沢な空の食事タイムがスタート!

【前菜:キャビア トラディショナルガーニッシュを添えて】

【飲物:ライム入りペリエとKRUG GRAND CUVEE(シャンパン)】

【サラダ:ロブスターのエキゾチックサラダ、洋梨のヴィネグレットソース】

【メイン:海の幸のブイヤベース仕立て、マルセイユ風】

【デザート:カスタード風味のクレープ、ラズベリーソース】

【これに加えてブレッドセレクションと季節の果物を・・・】

■34,000ft above the Saskatchewan, CANADA 12:45 29/Dec

ご飯は離陸後約1時間からスタートし、ノッタリノッタリ食事をしているとデザートを完食
し、コーヒーのお替りをもらう頃にはもう北米現地時間の13:20。もう既に機体はカナダ上空
を飛んでいる様子で、眼下には美しい山脈(う〜ん、これどこだろ)の雪景色が広がってい
る。まだ対流圏(troposphere)を飛んでいるが、それでも今日は素晴らしく空気がクリア!
外気はマイナス40数度以上なんだろうけど、成層圏(stratosphere)より上の空の青、そし
て対をなす雪山の景色が食後のコーヒーをより一層美味しくしてくれるってもんだ。

ちなみに、あんまり紹介されていないので、ANAファーストクラスで提供されている飲み物
類を全部ご紹介致しましょう。(2006年12月搭乗時)

【ANA First WINE & BEVERAGE】

・Cahmpagne KRUG GRAND CUVEE
・WINE Les Plantiers du Haut-Brion 2001
・WINE Vine Cliff Winery Chardonnay 2004
・WINE Schlossberg Grand Cru Riesling 2002
・WINE Babich Winemakers Reserve Sauvignon Blanc 2005
・WINE Balthazar Shiraz 2002
・WINE Chateau Petit Villeage 2002
・WINE Franciscan Oakville Estate Magnificat Cabernet Sauvignon/Merlot 2002
・WINE Montana Terraces Estate Pinot Noir 2003
・日本酒 大吟醸 玉綱(島根)
・日本酒 純米大吟醸 花乃酔(佐賀)
・梅酒 角玉梅酒(鹿児島)
・焼酎 へっついねこ(宮崎)
・焼酎 天盃(福岡)
・Aperitifs & Cocktails 11種類以上(特別メニューオーダー可能)
・Whiskies 4種類
・Spirits 2種類
・Brandy & Liqueurs 4種類
・Port Wine Taylor’s 20 Years Old Tawny Port
・Beer 4種類
・Soft Drinks 11種類
・TEA 抹茶黒豆玄米茶
・TEA ASSAM SILONIBARI
・TEA DARJEELING DARJEELING THE FIRST FLUSH
・TEA EARL GREY BREAKFAST EARL GRAY
・TEA JASMIN TEA
・TEA BOOIBOS NATURAL
・ANA’S ORIGINAL FLAVORED TEA GENTLR BREEZE
・ANA’S ORIGINAL FLAVORED TEA SUNNY SPOT
・COFFEE Columbian blend
・COFFEE Mocha blend
・COFFEE Kilimanjaro blend
・COFFEE Blue Mountain blend
・COFFEE Charcoal-roast coffee(炭焼)
・Espresso
・Cappuccino
・Caffelatte
・Caffe macchiato
・Decaffeinated coffee
・Hot chocolate
・煎茶
・ほうじ茶
・梅こんぶ茶

と、まぁアホみたいになんでも飲める状況になっており、湯葉兄も行き返りで色々その時その
時の好みで飲み物を飲んでいたわけですが、基本下戸なおいらはこのクラスの真価ともいえる
ワイン類には手をつけず、そういう意味ではモトを取っていない事が明白なのでありますな。
でもDecafがあったり、黒豆茶があったり・・・割とおいらの好みに応じても結構色々選べる
な・・・と。ウイスキーがしょぼいのが残念でならん。

昼食を終えると、機内は落ち着いたムードになり、Fキャビンでも各々が映画をみたり、読書
をしたりと悠々した時間が過ぎてゆく。時たま飲み物の交換を頼む声が聞こえるくらいで、
静寂に包まれたキャビンは時間が過ぎてゆくのを忘れてしまうほど快適だ。機体は、カナダの
「ウィニペグ(Winnipeg)」上空を通過し、「フォート・マクマレー(Fort McMurrey)」
の東側を通過、更にはオーロラで有名な「イエローナイフ(Yellow Knife / CYZF)」の上
空を越えてゆく。イエローナイフからはやや東へ針路を取り、カナダ最高峰で知られるローガ
ン山(5,959m)を要する、ユーコン準州(Yukon Territory)の上空へお邪魔する。運が良
ければ夜間飛行時このエリアでは機内でもオーロラを見ることが出来る。おそらく高度が上が
りきっている日本⇒北米路線の時の方が見やすい(夜だし)と思う。僕自身も何度か機内から
着色はされていないが、真っ白なオーロラがひらひらうごめく姿を見た経験があるので、北米
路線に乗る人は是非スカイマップをみながらチャレンジしてみると良いだろうと思う。


3杯目のコーヒーをお替りして、持ち込んだ本をゆったり読んでいる頃、突如キャプテンアナ
ウンスが入る。

「ご搭乗の皆様こんにちは・・・(中略)・・・えぇ〜、先ほど先行するJAL機からのリポー
トによりますと、この先約15分程の空域でやや強い揺れがあったと報告を受けております。
それによりまして、お寛ぎ中の皆様におきましては大変恐縮ではございますが、あと、
えぇ・・・約5分程でシートベルトサインの方、点灯させて頂きます。トイレなど・・・」

おぉ、揺れか。ウェルカムお、揺れ大好きお!

■36,000ft above the Cordova, Alaska USA 15:55 29/Dec

て事で、極めてイレギュラーな湯葉兄の嗜好に沿った形で揺れてくれるらしい。アナウンス
の約5分後になる北米現地時間の16:00(離陸後約4時間45分)、シートベルトサインが点灯
し、その約10分後位からガタゴトと揺れが始まる。窓の外はなんともまだ綺麗なブルーと
ホワイトのコントラストが続いており、こんなクリアーな空で揺れるんだから分からんよな〜
と思ってしまう。途中わりと強めのアップダウンが起きたりするが、言うほど強い揺れではな
かった(と俺は思う)。揺れたポイントは地図とアナウンスによればどうやらアラスカ州の
「コルドバ(Cordova)」付近(北緯60.54度、西経145.76度)。アラスカ湾に面した小さ
い街の上空だ。・・・アラスカは1867年にロシアからアメリカが購入した土地。ただの氷土
だと思われていた当時は「アホか・・・」と言われたそうだが、それを裏付けるように、売却
価格はなんと「1平方km=5ドル」というバーゲンだったそうな。アッチャコッチャに飛んで
ゆくコーヒーを手に持ちながら、綺麗な空といよいよアラスカ上空まで来てしまった・・・と
いう寂しさ(しつこい?)を感じながら揺れる機内で眠くなってゆく。・・・でも寝ない
(笑)。コルドバはかの有名な「アンカレッジ(Anchorage)」から約240km程度離れた
街、つまりもうしばらくすると機体はアンカレッジ上空を通過してしまう。アンカレッジは
飛行機少年時代に憧れだった土地。当時は飛行機も燃費や、シベリア上空(=ソビエト連邦上
空)が飛行できないという制限のため、ヨーロッパ路線便は途中で燃料などの補給が必要だっ
た。そのため、物資補給で必ず「アンカレッジ」に寄航していたのだ。日本発の国際線という
と「アンカレッジ経由」というイメージが強く刷り込まれてしまったので、なんとも飛行機少
年にはかぐわしい響きを持った土地として記憶されてしまったのである。その、「アンカレッ
ジ」、一体どんな意味を持つ地名なのかと言えばこれが結構面白い。・・・1914年にアラス
カ鉄道が建設され始めた際、建設資材を搬入するための臨時の港として建設された土地だった
りするのだが、その際国際地図に「資材搬入用投錨地(=anchorage)」と記載するのを
間違えて、大文字で「Anchorage」と記載してしまった為、固有の土地名称だと勘違いされ
たまま馴染んでしまったらしい。その後も航空路線のハブ空港として多くの国際便が寄航する
土地となったので、ある意味この名前が馴染んだことはある種の必然として考えてみても面白
い。そんな憧れのアンカレッジ、いまだ地面を踏みしめたことはない。


本も読み飽きたので軽く仮眠をしている頃、高度は最終の巡航高度となる38,000ft
(11,692m)に到達。もうちょっとで成層圏へ達する高度だ。エンジンもより静かな音とな
り、ビジ・エコのキャビンも今は「作られた夜」を過ごしていることだろう。真っ暗なファー
ストのキャビンでもほぼ全員がシートをフルフラットにして羽毛布団を被っている。時折操作
される液晶画面が真っ暗なキャビンを照らすが、しばらくすればその光も暗く調整されてゆ
]]く。寝起き用に配られたミネラルウォーターが時折の揺れでカタコト、とポケットの中で
音を立てる以外まったくの静穏空間。長距離国際線のこの「作られた夜」がとっても好きな
僕だが、フルフラットの誘惑には勝てず目一杯眠りの森へ誘われてしまう。

「シュウウーン」というエンジンの音の弱まりと、上空でのクルーズ時には3度程度ノーズを
あげた状態で飛んでいる機体が下向きに傾く感覚で目が覚める。どうやら巡航高度を変更する
らしい。寝癖で一杯になった髪をなんとなすべくトイレに立つ。機首付近にある一番前のドア
(R1)の窓から下を覗くとどうやら海の上だ。・・・ということは、ベーリング海から
アリューシャン列島を抜け、下手したらそろそろ千島列島に入ろうという頃だろうか。座席に
戻り、椅子をリラックスポジションへ戻し、飲み物をもらう。なんか付け合せに・・・と頼ん
でチョコとクッキーを添えてもらい、スカイマップをみつつ音楽番組を探す。行きに
「Sound Shower」は聞きつくしてしまったので、おなじみの「Best Hit USA(ANAに乗っ
てる人にはかなりお馴染みかと思いますが)」の小林克也の声でも聞くか・・・と。ん〜、
今月のベストヒットはイマサンだなぁ、と聞くでもなく、なんとなく耳に流しながら読書の
続きをする。

お腹も空いたし、何か食べようかなぁと思っていると丁度早めの朝食の時間帯らしくCAさん
達が好みを聞いてくる。腹は完全に和食を欲しているが、和定食みたいなのは嫌だ。ついでに
フルーツもつけたいからメニューの和朝食コースをそのまま頼むとハズレだな、これは。って
事で、別途「いつでも頼めるメニュー」に記載してある「ウニ・イクラ丼」にフルーツなど適
当に組み合わせて注文をする。ファーストは基本的に(まぁビジもそうかな)、食べたい時に
食べたいものが食べれる様になっている。さっきは飲み物を紹介したので、今回はその「いつ
でも食べれるもの」を羅列してみようと思う。

【ANAファースト、いつでも食べれるものリスト】
・和風珍味 汐ふき椎茸
・和風珍味 いかさし昆布漬け
・海鮮と野菜の串揚げ 抹茶塩風味
・ずわい蟹と海老芋のオランダ煮 香酢餡掛け
・おでん
・漬物取り合わせ
・サンタンドレ(チーズね)
・フルム・ダンベールAOC(チーズ)
・ ペコリーノ トリュフ風味(チーズ)
・きつねうどん
・広東風ふかひれラーメン
・紫うにいくら丼
・鮭茶漬け
・広東粥
・地鶏とマッシュルームのカリー
・スーパーチーズバーガー
・カルツォーネピッツア
・ミネストローネスープ
・ガーデンサラダ
・コーンフレーク
・フレッシュフルーツ
・子持ち昆布土佐漬け
・まながつお味噌幽庵焼き
・クリーミースモークサーモンパスタ
・ブレッドロール

って事で、さすがに往復136万円も払って乗るクラスだけのことはあるサービスが用意されて
いる。目の前に出された久しぶりの美味しそうな「ご飯」+味噌汁。うう〜ん、日本人の心。
隣の家族連れの母親も同じ心境だったのか「ウニ・イクラ丼」を注文している(笑)。「日本人
の心だわねぇ〜☆ホクホク」と丼ものを食べているうちに機体のスカイマップにいよいよ北海
道が入ってくる。マジかよ、もう日本かよ。降りちゃうのかよ。。。


機体はディセント(降下)を始め、どんどん成田へ向けての針路を進む。いっつも北海道が近
くなると揺れ始めるが、なんかここには気流があるのだろうか。不思議とこの辺りからは眼下
に広がる空が親しみのある、見慣れた空に見えてしまうのは本当に人間って適当な生き物だと
思う。今まで見てきたカナダの空と北海道上空の空が違うっちゅーのか?(いや、でもたぶん
違う気もする)。太陽に照らされてキラキラ光る太平洋を眺めながら少しづつ、少しづつ旅の
終わりが現実のものとなって来たようだ。疲労と焦燥でぐったりしながら乗り込んだ成田エキ
スプレスの朝からわずか数日。結局この旅が教えてくれたのは、自分が自分らしくあるために
は必要な場所と生き方があって、どんな時にも自分という軸を曲げないで生きるべきだ、とい
うこと。ちょっとだけ晴れ晴れとした気分になりながら座席をアップライトポジションに直
し、最終着陸態勢に備える。・・・右手に銚子が見える頃、機体は小回りに右旋回をして、
滑走路へ正対しグングン地上が近づいてくる。機内のスカイビジョンからは遠くに見える成田
の滑走路がボンヤリと迫りつつある事が分かる。冬の気圧配置のせいか内陸に入りあと数分で
着陸というタイミングから機体がゆったりゆったりと揺さぶられ始め、目の前の地平線も斜め
になったり、元に戻ったりを繰り返す。見た目にも民家が大きくなり、騒音問題で約750m内
側にディスプレイスド(移設)されたスレッショルド(滑走路末端)の不思議な印が肉眼でも
見えてくる。いよいよ接地か。。。と思っていると、接地したかどうかわからない位の軽い
ショックでメインギア(後輪)が接地したことが分かる。そのまますぅぅ〜っとノーズギア
(前輪)も接地をしたらしく大きなスラストリバーサー(逆噴射)の音が耳元で唸る。ってい
うか、超ナイスランディング。久しぶりにすんばらしい。

WELCOME BACK TO TOKYO.

■TOKYO Narita New International Airport 13:40 30/Dec

約11時間に渡る空の旅は終わりを告げ、手荷物をまとめた俺たちは殺風景な空気が懐かしい
成田のイミグレーションへの道を歩いていた。日付変更線を跨いだ関係上、気がつけばもう
大晦日イブである12月30日になっている。年の瀬の出国ラッシュの様な雰囲気がディパー
チャーゾーンでは展開されているが、帰国者はそれほど多くなく、イミグレも早々に通過。
荷物をピックして、長旅の疲れを癒しに「アフターラウンジ」へ。・・・そうなんだよね、
新しくなった第1ターミナルには、到着者と乗り継ぎ客専用のラウンジ(Signet)が設けられ
ている。出発時のラウンジはそりゃ当然なんだけど、10時間位乗ってきて、そのまま家より
は、軽く熱いシャワーを浴びて一杯飲んで・・・ってのは大変有難い。そのまま仕事!って時
にも良い気分転換と目覚まし効果があると思えるし。って事で、早速それを試すべくコロコロ
荷物を引きずりながらラウンジにチェックインして、シャワーブースの予約を入れる。


シャワーブースはこんな感じで小ぎれいな空間になっている。アメニティが並べられ、ゆった
りとシャワーを浴びた後に簡単なグルーミングをし、ソファーの並んだラウンジで冷たい飲み
物やお菓子、ビールなどを楽しむことが出来るっていう寸法。俺もシャワーの後に冷たい紅茶
を飲みながら早速仲間に連絡を入れ、夜の段取りを・・・って、そのまま遊ぶのか!って感じ
だがしょうがない。大晦日が近いし、大晦日元旦は毎年恒例の「初日の出の会」だから連絡事
項や打ち合わせ先も多い。

すっかり日本人モードに再起動した俺は、成田を後にして目黒の部屋を目指す。午後の日差し
から夕暮れの日差しに変わろうとする湾岸線を走りながら、忙しいし肉体的にも厳しい代理店
時代の毎日を思い出す。シカゴ初日でも感じた、「時間と空間が歪んだ毎日」が自分自身に一
番合っている暮らし方なんだなぁ、と不思議な感慨を覚えるのが分かる。過大なストレスにさ
らされ、寝不足と空腹とコロコロ変わる天候とに耐えながらも、1日1日に達成感があるって
いうのは素晴らしいことだ。人は毎日成長を続けて生きてゆくもの。その成長は実感できるも
の、出来ないものとあるが、これからの毎日はどっちだろう。この一年は色々大きく動いた一
年だった。でも大きく動いたのは環境だけかもしれないし、ひょっとしたら自分自身の内面は
後退してしまっているのかもしれない。少なくともクリエイティブな脳みそはややお留守な毎
日だった訳で、そのへんの反射神経や吸収力が落ちたことは否めない。より些細なものに感動
し、より多くのものに共感する。そんな単純な心のセンシティビティが今の俺は落ちている。
ちょっとだけこのシカゴ、ニューヨークで回復したそれは一体いつまで持つのだろうか。多く
の友人に囲まれ、多くの刺激的な仲間がいて、多くの感動的な事象を共有させてもらえる。
そんな恵まれた環境にこれから俺は何を還元してゆけるのだろうか。Give&Takeで言えば、
俺は比率としてGiveの多い奴になりたい。多くの人に何かをGiveすることで、ほんのちょっ
と何かをTake出来ることが喜びな人種なのだから。だから、そのGiveが少しだけ枯れている
今はフラストレーション以外の何者でもない。・・・それが理解出来ただけでもこの旅は意味
があった。漫然としたフラストレーションの根っこはなんだったのか。それに対する答えが
見つかったが、それはより自分自身を混乱させる羽目になった。


■TOKYO Meguro Gakugei-daigaku 21:35 30/Dec

学芸大学のとある焼肉屋。大学時代の同期でいまだに車や飲み会、その他のイベントを通して
年中遊んでいる「K」と、横浜のファクトリーから愛車を整備し乗ってきてくれた幼馴染
「G」、そしてわずか2日前にニューヨークで飯を食べた「ユキ」の4人が集まり「ミニ忘年
会」をしている。何を話すでもなく、旅のこと、この一年のこと、身近な話題をループさせな
がら。こうやって気軽に肉を焼きつつ他愛もないことを話せるのって本当に素晴らしい。ユキ
は俺と違って12時間ニューヨークから仕事をし続けて先ほど日本に帰りついたばかりだとい
うのに、快く顔を出してくれている。いつまでこんな幸せな時間が続くのかは分からないが、
この幸せな一瞬一瞬をもっと積み重ねて行ければいいと思う。人生の価値ってのはそうやっ
て、いかに心が豊かな時間を多く持てたか、だと最近強く思うようになったし、なんだか
ニューエコノミーの姿を見ながら「お金で買えないもの」ってのがなんだかやっと本気で分
かってきた気がする。ま、あるに越したことはないけど(笑)。

■TOKYO Chofu Chuo-EXPWY 25:12 31/Dec

日付が大晦日に変わり、いよいよ2006年も24時間単位のカウントダウンに変わる頃、俺たち
は店を出て、三々五々家路に着く。Gが持ってきてくれた愛車に火をいれ、246沿いに住むK
を俺は実家に帰るので途中まで乗せてゆく。中央高速を猛烈な速度でクルーズしつつ、心地
よいFMから流れるBGMを聞きながら、車が多摩川を越える頃・・・

G 「おい、そんで明日何時集合にすんだよ?」
湯 「え?まぁいいんじゃねぇの、適当で。」
G 「そうやっていっつも適当っつーから半日位予定ズレて大変なことになるんじゃん」
湯 「なんとかなんだろ、ガキじゃねぇんだし(笑)。今年は宿もねぇからな・・・」
G 「ま、今更連絡しても遅いかー」
湯 「起きたら考えようぜ、とりあえず昼集合で伊豆には夜でいいだろ。」
G 「アボンさん置いてきぼりで(笑)」
湯 「あれ?来るんだっけ、結局」
G 「それひどすぎね?来るって言ってたべ、来る気マンマンだよあの人」
湯 「ふ〜ん」
G 「買出しはまたドンキ?」
湯 「でしょー」


・・・そのまま離陸できそうな速度のキャビンの中、BMW M3が発する轟音に紛れながら
いつもどおりの会話が続く。インターを降り、駐車場に車を止め、冷え切った地元の空気の中
お互いに煙草に火をつけて一言。

「じゃ、あした。」

明日は一人では探せないのかもしれないが、今日を形作るのは一人の心の持ちようだ。
なんだかそんな気持ちになった5日間、北米の旅。コントロール出来ない疲れに支配されてい
た俺は、いつしか慣れ親しんだ疲れを身体に感じていた。

Photo by Toshiaki Shidara on 1st/Jan/2007

まもなく怒涛の2006年が終わろうとしている。

(FIN)


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コメント 2

kimura

ウワァ~。。。
壮大な、と言っても物凄い短期間ですがそうは思えない超濃い大作、
終わっちゃいましたね~。アンバー掛かった美しい写真がいつも通り素晴らしいっす。何か、流石フィロソファーですね!

僕も4月に休み取って一人で旅行する予定だったんで、シカゴも候補に入れてみようかな。「人体輪切り博物館」も行ってみたいですし(^^)。

僕行ったことないんですが、湯葉さんミクシィやられてるんですか??
by kimura (2007-03-29 17:08) 

Yuba

kimuraはん、この駄文長文にお付き合い頂きありがとうございます!
あははは、一応これでも哲学科出身ですからね(笑)。。。

春のシカゴは本当に気持ちよいと思います。ここ数日の気温は東京と
同程度なので過ごしやすいと思いますし、何より街が綺麗なので歩き
易いかと。少し足を伸ばして、僕は行けなかったけど五大湖も是非楽
しんで欲しいですー。

ちなみに、MIXIは「Yu☆ba」で検索すれば出てきますよ~。
by Yuba (2007-03-30 14:09) 

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